私は絶対に無罪なのですが,裁判でそれを証明しなければならないのですか?
被告人が無罪を証明しなければならないということはありません。
刑事裁判では,検察官に立証責任がありますので,「被告人が罪を犯したこと」を検察官が証明しなければならないことになります。
「犯罪の証明がないとき」,つまり,検察官が「被告人が罪を犯したこと」を証明できないときは,無罪の言渡しをしなければならないことになっています(刑事訴訟法336条)。
このように,立証責任は検察官にありますので,被告人には「無罪であること」を証明する責任はありません。
もっとも,検察官の証明により被告人が罪を犯したと認められそうになったときは,被告人にも「検察官の証明が正しくない(疑わしい)」ことを証明しなければならなくなります。
たとえば,検察官が,目撃証言によってお金を盗んだのが被告人であることを立証しようとし,これに成功しそうになったとき,被告人は証人の記憶の不鮮明な点を追及したりして,「検察官の証明が正しくない(疑わしい)」ことを証明しなければならなくなります。
この場合でも,立証責任を負うのはあくまでも検察官であり,被告人は,「証人の記憶が間違っている」ことまで証明する必要はなく,「証言だけでは盗んだのが被告人なのか誰なのか判断できない」というレベル,言い換えると,真偽不明にまで持ち込めれば,有罪にはならないことになります。
なお,例外的に法律で被告人に証明責任があるとされているものがあります。名誉毀損罪(刑法230条1項)は「公然と事実を摘示」して人の名誉を傷つけた場合に成立しますが,(1)公共の利害に関する事実に関し,(2)専ら公益を図る目的であった場合には,被告人が「真実であることの証明」に成功すれば,罰せられないとされており(同条の2),この場合に,「真実であること」の証明責任は被告人にあります。